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【法律コラム】パワハラ編⑤

 前回は会社におけるパワハラ防止対応をみてみました。
 では、パワハラが発生してしまったら、どんなリスクがあるのでしょうか?

 民法上、加害者、会社それぞれが、被害者から損害賠償請求を受ける可能性があります。

加害者:民法709条の不法行為責任
会 社:民法415条の債務不履行責任(安全配慮義務違反)
    民法715条の不法行為責任(使用者責任)

 請求される賠償額は高額になることがあります。
 なぜなら、被害者がパワハラ言動を苦に自殺していた場合は、被害者が生存していたら得られたであろう逸失利益等が、被害者がパワハラにより退職に至っていた場合は、解雇無効に伴う未払い賃金や強制的に退職させられたことによって得られなくなった賃金等が加味されるからです。
 愛知県日進市の会社において社長が社員に対して全治12日間におよぶ暴行、退職強要を含むパワハラを行い、それを苦に社員が自殺した事件で、遺族ら(社員の妻と子ら)が社長及び会社に対して損害賠償を求めました。
 この裁判では、裁判所は社長から社員に対するパワハラがあったと認定し、会社と社長は連帯して総額5400万円を原告らに支払うよう命じました(名古屋地方裁判所 平成26年1月15日判決)。

 受けたパワハラの内容や程度によって異なりますが、年々パワハラによる被害は重く受け止められ、賠償額も増額傾向にあります。

 パワハラ言動が刑法上の犯罪に該当すると、当然罪を問われる可能性があります。
  身体的な攻撃は、暴行罪・傷害罪に該当する可能性があり、暴言が名誉棄損罪・侮辱罪・脅迫罪に該当する可能性があります。また、義務のないことを行わせる行為(例:行ってもいないことに対し、謝罪文の提出を命じる行為)には、強要罪が成立する場合があります。
 実際に暴行を受けたとして警察に傷害の届け出た実例は存在します。加害者の言動が傷害等に該当するとして起訴されれば、当然、刑事罰の対象です。

 加害者個人の信用や安定はもちろんですが、会社自体が著しく社会的信用を失い、職場全体の安定性を失う恐れがあります。
 

 現代はSNSなどで情報が拡散し易く、パワハラを起こした企業というイメージがつくと、会社のSNSが炎上する、消費者が商品を購入しなくなり売り上げが低下する、取引先からの信用を失い失注する、会社の株価が下がる、など大きなダメージを受ける可能性があります。
 例えパワハラ発生は事実ではなかったと、きちんと対応している姿を示しておかないと、不利益が生じかねません。

 また、会社内部の安定性が害されます。
 職場の雰囲気が悪くなると、生産性の低下をもたらします。その結果、計画通りに事業活動が進まない、人材流出が起こるなど、短期~中期での企業活動に深刻な影響が出ることがあります。
 人事面でも影響があります。従業員の離職・人材流出は典型的な悪影響ですが、パワハラが明るみに出た企業では採用活動に支障が出ることもあります。少子高齢化が進む昨今においては、採用活動は長期の経営戦略の重要課題であり、無視できない悪影響が生じる可能性があります。

 このような事態を避けるためにも、前回の【法律コラム】パワハラ編④で述べた防止対策が求められています。
 
 パワハラなどは発生しないことが何より最善です。
 経営する側として、発生させないために何をしたらいいか、発生した場合はどうしたらいいか(何を調査したらいいか)を、発生させないために自社は何を講じているか、労働者や職場と向き合っているか、
 労働者として、自分の言動に問題はないか、自分がされた言動はパワハラにあたらないか、自社はどのような対策を講じているか、
 などなど、色々なことを今一度省みる・考えてみる機会にしてもらえたら、と思います。

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