<事案の概要>
定期的に料理教室を主宰しているAさんから、
ある日の料理教室が終わった後、駐車場で生徒のBさんとCさんがケンカしてしまい、生徒のCさんが腕に傷を負ってしまった。Cさんは、料理教室の敷地内で負ったケガなので、わたし(Aさん)に治療費を負担してほしいと言ってきた。支払うべきでしょうか?
と相談がありました。
<経過>
実はAさんは、Cさんに呼び出されてCさん宅を訪問し、そこで思わず「治療費を支払います」と言ってしまっていました。ただ、いつまでに、いくら、どのような方法でということは決まっておらず、合意書の作成もまだでした。
Aさんから依頼を受け、当職は、ひとまずCさんに連絡してみました。
Cさんはなかなか強情でした。「Aさんが治療費を払うと言いだしたんだから、ちゃんと払って欲しい」との回答です。
こちらが払いませんと返事をすると、なんとCさん、Aさんを訴えてきました。
<解説>
とある当事者の間で紛争が起こってしまい、話し合いの結果お互いに譲歩し合って紛争をやめる約束、いわゆる「和解」ですが、これも一種の契約になります。
契約は口頭でも成り立ちます。
和解書などの契約書は、契約した内容等を証明するものになります。
Cさんが言っているのは、合意書は作っていないが口頭での和解契約が成立していて、だからAさんに治療費を負担してほしい、ということでした。
<結果>
Aさんが「払う」と言ったことは素直に認めました。
しかし、Cさんが主張する「口頭で和解した」ですが、結局、合意書は作っていません。いつ、誰と誰が、どんな争いがあって、どのように解決するかを書くのが合意書の基本ですが、作成していないので、まったく分かりません。Cさんが振込先を教えたり、Aさんがメモを残していたりもしていませんでした。
そのような状態なので、交渉の途中でそもそも和解契約が成立していなかった、と主張しました。
裁判所は全面的にこちらの主張を支持し、Cさんの請求を認めませんでした。
つまり、Aさんの勝訴です。
<さいごに>
生活には色々な契約が存在します。スーパーでの買い物も実は売買契約なのです。口頭で成り立っている契約の代表です。
日常の細々したことに毎回契約書を作成するわけにはいきませんが、大事な場面、特に大金が関わるときは、契約内容を真剣に話し合い、その結果を「契約書」として残しておきましょう。
大事な契約は証拠として残しておかないと、後々問題になることが多いのです。